同志社大学 東アジア総合研究センター

研究プロジェクト

1.推進中の主なプロジェクト

1.アジア・太平洋価値観国際比較調査-文化多様体の統計科学的解析
(科学研究補助金基盤研究(S):2010~2014)研究課題番号:22223006 研究代表者:吉野諒三

統計数理研究所では、1953年以来、「日本人の国民性」調査を継続してきた。 この研究は1970年頃より国際比較調へと拡張され、「連鎖的比較 (Cultural Link Analysis)」や「文化多様体解析(Cultural Manifold Analysis)」と呼ばれる方法論が発展し、「データの科学」という実践パラダイムの展開へ結びついている。

21世紀初頭の今日、世界秩序の再構成が進み、国家を超えた単位によって構成された国際社会が生まれつつある。それが世界の平和と繁栄へと繋がるためには、国家間、民族間の円滑な相互理解が重要である。その成功のためには、現在の国内外の状況を適確に把握する必要がある。われわれの研究の主目的は、各国の人々の意識構造の統計科学的解明にある。特に、以下a)~c)に重点をおいて研究を遂行する。

  • a) 文化の伝播変容を統計科学的に解明するため、アジア・太平洋諸国の人々の意識構造について統計的標本抽出法に則った面接調査を遂行する。
  • b) 特に、21世紀における国際交流の中で、アジア・太平洋諸国民の「信頼感」のあり方に焦点を当て、世界の政治・経済の平和的発展の一助となる基礎情報の収集を推進させる。
  • c) 収集した「アジア・太平洋諸国民の意識調査」の情報を中心に、既存の「意識の国際比較調査」データとともに世界へ一般公開する。

日本は少子高齢化社会の中で労働人口が減少し、外国人労働者の積極的受け入れ等を始め、国際交流が必然となろうが、これに伴い、日常生活の中でも異文化間摩擦が様々な形で現われて来るに違いない。また、近年の「東アジア共同体」の具体化に伴う、EUや南北アメリカ圏との国際関係が構想され、異文化間理解、文化変容の研究がますます重要となってくる。

本研究で「アジア・太平洋諸国の国際比較データ」を、統計的に信頼できる方法で収集し公開することで、調査データが広く世界の人々に活用され、国内外での異文化間摩擦を回避し、世界の秩序の維持と発展の一助となり、また、世界の人文社会科学の研究者、統計学者の多様な実証研究をも促進させることを期待する。

http://www.ism.ac.jp/~yoshino/

2.グローバル化社会における環境意識形成のメカニズムとその影響に関する総合的研究
(科学研究補助金基盤研究(A):2009~2011)研究課題番号:21241015 研究代表者:鄭躍軍

本研究は、東アジア地域を研究対象とし、環境意識に関するこれまでの研究成果を踏まえ、以下の1)~4)に重点をおいて、方法論的展開をはかる総合的研究である。

  1. 人々の環境配慮行動(PEB: pro-environmental behavior)の根底となる環境意識(EC: environmental consciousness)の概念、形成過程、構造的特徴を分析することで、その基底を明らかにする。
  2. 国際比較研究の視点から厳格な標本調査法に則った環境意識調査を日本・韓国・中国で展開することで、グローバル化社会における人々の環境意識に影響を与える主な要因とその影響度合を実証的に解明する。
  3. 異なる文化的・政治的・経済的背景に置かれている社会集団から得られた調査データを統計的に解析することにより、環境意識から環境配慮行動までの因果関係連鎖を探索的に分析する。
  4. 環境意識の向上に繋がる基礎情報を抽出することにより、地球環境問題の解決に不可欠な一般市民の環境配慮行動を喚起するための新たな環境対策と環境教育システムを模索する。

グローバル化社会における東アジアの環境意識形成のメカニズム、意識と行動の関連性を明らかにし、研究成果をデータベース化した上で、社会へ積極的に公開することをはかる。

東アジアの文化・生活・環境に関する意識調査

このページの先頭へ

2.終了した主なプロジェクト

1.東アジア価値観国際比較調査 -「信頼感」の統計科学的解析-
(科学研究補助金基盤研究(A):2002~2005)研究課題番号:14252013 研究代表者:吉野諒三

本研究の重点は、以下のa)、b)、c)であった。 a)文化の伝播変容のために、東アジア諸国の人々の意識構造について統計科学的「標本抽出法」に則った面接調査を遂行する。 b)特に、21世紀における国際交流の中で、東アジア諸国民の「信頼感」のあり方について焦点を当て、世界の政治・経済の平和的発展の一助となる基礎情報を与える分析を推進させる。 c)収集した「東アジア諸国民の意識調査」の情報を中心に、既存の国際比較調査データ等とともにデータ・べ一スを作成し、一般公開する。上記a)については、2002〜2004年度において、日本、中国(北京・上海・香港)、韓国、台湾、シンガポールにおいて意識調査を遂行した。これは、各調査に平行して、分析が推進され、上記b)の内容を含めて国内外の学会でも報告された。特に2005年度は、総合データにもとついて、日本行動計量学会の学術誌2号にわたり「東アジア価値観国際比較」の特集として、多数の論文発表がなされた。上記c)については、調査法やデータの詳細は、統計数理研究所リポート等として国内外へ配布され、また以下のHP上で公開している。

http://www.ism.ac.jp/~yoshino/

2.地球環境問題への国際協調可能性の総合研究 -環境意識研究方法論の構築-
(科学研究補助金基盤研究(B):2004~2007)研究代表者:鄭 躍軍 研究課題番号:16402002

本研究は、
1)環境意識の概念、時空間的構造及び分類体系を総合的に再検討し、集団的環境意識の本質と形成過程を探索的に明らかにすること;2)東アジアを対象地域とし、異なる集団の環境意識の特徴を現地調査により解明すること;3)東京、北京、台北、ソウルの4都市から収集した調査データを基に、人々の環境意識と各種属性の関連性を解析することで、環境問題の解決に資する協調社会の要件に関する情報を掘り出すこと、4)環境意識研究の方法論を構築し、関連する研究成果を社会へ公開することで、日本における環境意識研究水準をアップさせること、を目的とし、国際的研究活動を展開した。平成16年度は、先行研究の文献・資料を分析することにより、環境意識の概念と時空間的構造を吟味した上で、現地調査用調査票を検討した。

平成17年度は東京と北京、平成18年度は台北とソウルを対象とした標本調査を個別面接聴取法により実施した。平成19年は識調査データを総合的に分析し、最終報告書の取りまとめと成果公開を中心とした。一連の現地調査とデータ解析を通して、得られた新しい研究成果の一部として、
1)一般市民の環境意識は環境の現状そのものに対する認識ではなく、環境の変化への主観的な判断である;2)人々は身近で、ローカルな環境に楽観的な見方を示し、地球規模の環境問題に悲観的な態度をもつ傾向がある;3)人口統計学的属性や情報伝達手段などは環境意識に大きな影響を与えている。4)異なる社会における集団的環境意識の特徴には大きな隔たりがある、などのことが挙げられる。なお、4都市における環境意識調査の企画と実施及び調査結果を中心に、2冊の研究レポートを刊行し、関連学会にて研究発表を行うと同時に、学術論文としても多数発表した。

東アジア四大都市環境意識調査

3.データ科学の新領域の開拓 -文化財データ解析-
(科学研究費補助金基盤研究(A):2006~2009)研究課題番号:18200020 研究代表者:村上征勝

これまで統計科学では, 医学・疫学・工学・経済学・社会学など多様な分野のデータを解析対象としてきた. だが人文科学分野, 特に歴史や文化を対象としたデータ解析については, 先の各分野のように体系・総合的に実践され, その分野で一般的な方法論となっているような現状ではない. これは, 歴史や文化の研究対象である資(史・試)料のデータ化に関する方法論の未成熟と, これを用いた領域横断的なデータ解析手法の不在が一因と考えられる. 本研究の目的は, これまで個別・分散的に研究されてきた a) 歴史や文化のあらゆる資(史・試)料を「文化財」として体系化し b) それらを統計科学の解析対象として位置づけると共に c) 全体を統合的に解析する統計学を基礎とした方法論を開発することである. また d) 統計科学の中に文化財データ解析という分野を確立することも視野にいれ、研究を展開してきた。

このページの先頭へ